○一は全・全は一●

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ガソリンが安くなったら日本にとっては嬉しいのでは?

原油価格は2014年の7月頃から下落に転じました。その後、マーケットに関わる人は度々「原油価格の下落が・・・」というニュースを耳にしてきたと思います。報道を聞いていると、原油価格の下落は日本経済、ひいては世界経済に良くない影響を与えているというニュアンスで報じられることが多々あります。しかし、日本は産油国ではなく、原油を輸入している国です。「原油の価格が下がるのは、日本にとってはうれしい事じゃないのか?」と思われる方も多いのではないでしょうか。 

そこで、原油価格と日本株の値動きの関係について書いてみたいと思います。

 

原則としては、日本は原油を輸入しているので普通は原油価格が安くなった方が嬉しいです。しかし、これは消費者にとっての話です。ガソリンスタンドなどを想像してみると分かり易いと思いますが、原油価格が下がれば、小売価格も下がります。つまり、仕入れ価格の下落が企業にもたらす利益は限定的です。そのメリットを最も享受するのは消費者なんです。

原油価格下落が日本経済にプラスの影響を与えるには

●原油価格の下落

→ガソリンなどの商品価格下落

→消費者が浮いたお金を他の消費に回す

→消費の需要に対応して企業が生産を増やす

GDP成長

という経路をたどる必要があります。

 

これには2つ問題があります。

 

まず1つ目は時間がかかることです。原油価格が下落し、仮にうまくこの経路をたどったとしても、それには1〜2年程度の時間を要します。なので価格が下がった瞬間ではなく、安い価格で安定推移する事によって徐々に経済への影響力を強めていくのです。

 

そして2つ目は、そもそも今の日本の状況ではこの経路を辿らないと考えられることです。未だデフレ脱却をしていない日本において、浮いたお金を消費に回すよりも貯蓄に回る可能性の方が高いです。

 

プラスの影響を与えるのに時間がかかる一方で、原油価格の急落がもたらす悪い影響はすぐに出てきます。 その影響は例えば、商社や資源開発産業にでます。これらの企業はたくさんの在庫を抱えているだけでなく、莫大なお金を投じて海外で開発プロジェクトをしています。すでに抱えている資産の価値がみるみる下がっていくだけでなく、開発のために購入した機器などの設備投資も回収が遅れます。これは企業からしたらたまったものではありません。原油価格が不安定になると、これらの企業は特損を計上し、株価は下がります。実体経済と金融市場の双方に悪影響を及ぼしていると言えるでしょう。

 

株価への影響のみに注目すると、もう1つ良くない状況が見えてきます。資源国の資産売却です。今、世界の原油の大部分は中東で産出されています。そして産油国の多くは税金が安く、福利厚生が充実しています。例えばサウジアラビアであれば、所得税も消費税も0で医療費、教育費、社会保障費も原則無料です。それもこれも、原油があっての話です。原油の販売価格がコスト割れをするようならば、社会保障制度を変えるか、それがすぐにできなければ貯金を取り崩して制度を維持するしかありません。

今、産油国の多くは後者を選択しています。つまり、持っている金融資産を売って、そのお金で社会保障を維持しているのです。その資産の中には日本株もあり、中東諸国が資産を売却している間は日本株にも売り圧力がかかります。

 

株式市場で動く金額全体からしたら、中東諸国の資産売却自体は大した金額ではありません。

今日の東証一部の売買代金は約2兆です。

対して、例えばサウジアラビア外資産は年間5〜8兆円減っています。資産の10%が日本株だと考えても、年間8000億円程度の売り圧力です。

 

ただ、上記のように価格の【急落】はマイナスの効果があることを投資家はわかっているので、いったん資金を引き揚げる行動を取りやすくなります。その結果、原油価格の下落に嫌気がさして株価が下がるという事態が度々起きているのです。